誕生 (サンコミックス)

誕生 (サンコミックス)

 大島弓子選集、誕生。デビュー当年68〜71年の傑作が大体入ってます。傑作じゃないのは入っていないみたいです。デビュー作の「ポーラの涙」は、もう手塚治虫の漫画大学の説明さながらの世界名作チックな話でした。ポーラが一生懸命ママの愛を取り戻すというお話し。ここら辺はコマ数が多い、めっちゃ多い。作品自体は特に取り立てて素晴らしいところもないし、主張もあるわけじゃないし、大してオチもない。きらりと光るものを全く感じない。オール読みきり!とかに入っているどうでもいい漫画の一つみたいな。けれども、「誕生」でいきなり、凄いことになってる。いきなり何があったんだ…、これは。あまりの作品の強さに久々に衝撃を受けた。当時の社会に思い切り反抗している様がなんだか快い作品。感情表現がとにかく斬新、ストレート。高校生の主人公の親友が妊娠しまうというストーリーなのですが、とにかく主人公のモノローグ?が凄い。

「男性は突然人を愛すのかしら… ほんとうの愛もできあがらないうちに子どもなんてのぞみもしないうちに! そんなふうにしてできた子どもがどんなに苦しむかわかりはしないんだわ! 男なんかにはきっとわかりはしない…」

素晴らしい。「男なんか」って言うのが素晴らしい。萌え〜。完全に閉じた世界。こうゆう閉鎖的な女子もえ〜。
他にも、主人公の妄想(?)のシーン。

あさみの中の子はわたしなのだ!昔わたしはあさみの中で苦しんだ… 生まれるべきか生まれぬべきか…(中略) あの夜わたしのまえをだれもとおらなかったら… 翌朝はゴミといっしょに火をつけられて あの焼却炉の中で!!まだことばもしらぬ声で助けをよび… 泣き叫び… もがき苦しんでまだもえてないゴミのほうへはいずって… やがて足をやかれ…手をやかれ… 息が出来ず… 息が出来ず!!

「昔わたしはあさみの中で苦しんだ!」っていう、自分は親友から生まれたって考えがちょっとエロくてどきどきするんですが、私はとにかく、「息が出来ず!!」の所で、赤ちゃんの姿だった主人公が今の姿に一瞬で戻ったところとか凄いと思う。当時知るはずだった熱さ辛さを、大きくなった彼女が今味わっているって事ですね。あと、自責の念とか?
 この誕生で大分自分の進むべき方向が分かったみたいで、確かにそれ以降の大島弓子作品は、大分デビュー当初とは変わってきてます。ちょっと妄想少女が主人公というか、なんと言うか。でもそれも、他と同じ、ただの少女マンガの漫画の域を出ていなくて、私はやっぱり、ミモザ館から今の大島弓子の道がスタートした気がします。