あーん

Jazz‐Tango (小学館文庫 (あA-23))

Jazz‐Tango (小学館文庫 (あA-23))

 幸せな家庭に育った、才覚と美しさにあふれる少年の目の前に、突如「お前の腕を縛って犯したい」とか恐ろしいことを言ってくる、彼そっくりの顔をした少年が現れてうんたらかんたらって話しです。ちなみにタイトルの「Jazz Tango」っていうのは、あらゆる人間と見境無く性的関係を持つ趣味の事を言うらしいです。覚えておこう。
 秋里和国に関しては、私は古い作品しか読んだこと無くて(それでも地球は回ってるは積読してるので今度読んでみようと思います)、とても叙情的なコマ割りをする長い顔を描く作者、つまり上手いけどイマイチな絵を描く作者という認識しかなかったんですけれども、私が知らない間に彼女の絵はかなり変化していたんですね。物凄く現代的で綺麗になっていてびっくりしました。これなら萌える。
 現実世界では、AIDSとゲイというのは切り離せない関係でありながら、それを一切無視するロマンチックな少女漫画やおいの世界をぶち壊しにする感じがいいです。この作品も、最初ちょっと読んだだけではちょっと影があるただのロマンチックなやおい漫画のように思えるんですけれども、最後の10ページくらいで恐ろしい事になるのがいいです。最初は嫌がっていた性格の良い主人公が、同情にまみれて、段々と自分に似た顔の男に惹かれて行き、その内ムードに飲まれてしまう描写が一番の見所だと思います。ページの余白の使い方も良いです。
 この本には、表題作とあともう一つ、「万物は原子より成るということを」っていう作品が入っています。主人公は自分のセクシャリティがぼんやりと見えていない男で、厳格な家に育ち、父親にびくびくしながら暮らしています。そんな主人公が、とあるフランス男に惹かれて、両思いになったかと思いきやつい事実が信じられなくてそれを拒絶して日本に帰国しふかいどん底に落ち込むものの、その後フランス男が日本まで追いかけてきてくれて、それに感激して、フランスで一緒に暮らすようになったり、別れたり、あと家族と色んなごたごたがあったり、という、一つの恋愛人生を描いた作品です。主人公のフランス男への思いで、ほとんどのページが埋まっているのが恐ろしいです。個人的にはジャズタンゴの方が萌えるので好きなのですが、こっちの作品の方が見事だと思います。何がいいのかどこが凄いのか具体的に説明できないのが凄くもどかしいです。